図書館の掟。/田中宏輔
 

つぎつぎと灰と煙と骨にされていく死者たち。
眠りのさなかに燃え上がる十人の死者たち。
死者たちは肉体的な痛みを感じない。
死者たちは肉体的には苦痛を感じない。
同じ記憶をもった十人の死者たち。
つぎつぎと灰と煙と骨になっていく
同じ記憶を持った十人の死者たち。


     *


夫の記憶を
ほんとうの夫の記憶を
白紙状態の死者にコピーするというのだけれど
赤の他人が夫の記憶を持っていることには違いはない。
もう二度と夫のもとには訪れないわ。
いえ、それはもうもとの夫ではないのだから
そんな言い方もおかしいわ。
夫ではないんですもの。
いえいえ違うわ。
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