図書館の掟。/田中宏輔
 
踊る。
だれにも見つからない場所に
ひとりの司書が連れ出していたのだ。


     *


「それでどちらのウィルスなのですか?」
「記憶転写型です。」
記憶転写型のウィルスに感染した死者は
その記憶がある一人の死者としだいに似てきて
最終的にはまったく同じ記憶を持つことになるのだった。
「記憶欠損型よりも感染力が強くて
性質(たち)が悪いものでしたね。」
司書の表情が一段と暗くなった。
「もう十年以上も前の話ですが
東端の都市の中央図書館が
記憶転写型のウィルスにやられて
瞬く間に滅びました。」
「そうでしたね。
わたしたちの文明は
死者を中心に発展
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