図書館の掟。/田中宏輔
る。
これらの規約を破るものは貸し出しカードの一枚に加えることとする。
*
ガチャリという手錠の音が部屋のなかに響いた。
死者を坐らせるときには気をつけなければならなかったのだが
ついぼんやりとしてしまっていた。
死者は十九世紀末の北アイルランド出身の若くて美しい女性で
うすくひらいた紫色の唇が言葉にできないくらいに艶めかしかったのだ。
ぼくは彼女の両の手を自分の両の手で包み
彼女の唇に自分の唇を触れさせた。
興奮して噛んだりしないように注意して
ぼくはぼくの上下の唇の先で
彼女の下唇をはさんだ。
冷たい唇がゆっくりひらいていった
ぼくは彼女の
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