図書館の掟。/田中宏輔
 
いて開けた。
二つ折りのカタログを手に持って
男は唇の両端を上げて、図書館長に思わし気な視線を投げかけた。
「そのカタログにある死者が、どうして、わたしの興味を強く惹くと考えたのかね?」
「電話でもお話ししたと思いますが、それはあなた自身が詩人だからです。
 しかも、この死者の詩人の研究家だからですよ。」
「わたしの研究分野は、きみが思っているほど狭いものではないのだよ。
 それはいったい、だれなんだね。その死者の詩人は。」
「あなたは、かねがね、死者たちの言葉だけによる全行引用詩を
 たびたび発表なさっていますね。
 この死者の詩人は、生前に、あなたがされてい
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