図書館の掟。/田中宏輔
ているようなことをしていたのですよ。」
図書館長は深く腰掛けていた椅子から身を乗り出すようにして
上体を前に傾けた。
「いったい、それは、だれだね?」
図書館長の頭のなかに何人かの詩人の顔が浮かんだ。
男は図書館長の後ろの壁に架けられたエゴン・シーレの絵を見上げた。
「あなたの頭の後ろにあるシーレの絵を
この詩人も、生前は大好きだったようですね。」
図書館長にはすでにその死者がだれであるのか察しがついていたが
男の態度に怒りを覚えて眉間に皺を寄せた。
「もったいぶらないで、はやく教えたまえ。
いまきみを図書館警備の者に言って出て行かせることも出来るのだぞ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(10)