詩の水族館/ハァモニィベル
その雨のやうな、蓼(タデ)のやうな、うすい樹の蜜のやうな匂ひ
夏ほど魚を愛す時はない。〈惣之助〉
澄んだ渓水の中を落葉に絡まりながら下流へ下流へと
落ちていく魚がある。木の葉山女魚(こ はヤマメ)だ。
姿を見ると、しみじみと秋のさびしさが身に沁みる。
深い淵の渦巻くところに、上流からくる餌を待って群れている。
釣糸の白羽の目印がツイと横に揺れる。胴に波を打たせながら
ひらひらと鈎先にかかってくる。可憐な姿で。塩焼きもいい〈垢石〉
ほぼ年中雪を頂く南アルプス山系。西に中央アルプス。その間を、天竜河が
うねりくねって流れている。私は午後いつもその支
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