詩の水族館/ハァモニィベル
来た。
真黒な半身をのつそりと覗かせてゐる
そのしかめつ面。人を恐れないその眼の光。
水草の蔭に、幾年と棲みながらへて、絶えず身悶えして池を泳ぎまはり
絶えず限られた池を呪つて来た老魚の生活の倦怠と憂鬱。それは新鮮な生命に
ぴちぴちしてゐた私の小さな心をグロテスクな味に満たした〈泣菫〉
夏の匂ひのする
夏の光りのある
夏の形体をもつてゐる魚――といつたら―
夏ほど魚が魚らしくしてゐる時はない。
暑い夏は魚になつて暮らしたいほどである。
王者は鮎である。形から匂ひから味覚から川の女王と謂はれてゐる。
香魚(こうぎょ)といふだけあつて鮎は川の中から匂ふ
その
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