ピカチュウ/無名猫
満員電車の窓に映る
よれたスーツと、冴えない顔
「パパ、がんばってね」
息子がくれたピカチュウのシール
名刺入れの裏に、ひっそりと貼ってある
雷を放てるわけじゃない
敵を倒せるわけでもない
けれど今日も、
会議室の沈黙に
「はい、検討します」
技のように、作り笑いを繰り出す
帰りの駅、
ベンチに座って
缶ビールを開ける音が、かすかに
「ピカチュウ」
と聞こえた気がして
疲れた口元が、少し緩む
あのころは
駅まで競争して、
勝っても負けても君は笑ってた
最近は
ドアの向こうで「いってらっしゃい」もない
休みの日も「友だちと遊ぶから」
ピカ
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