おまん瞠目(おまんとくれは、その参)/佐々宝砂
呉葉を主君と仰ぎながらも、
おまんでさへもさう思ふ。
呉葉はときをり里に下る。
今も盗みをする。男を殺す。女を拐かす。
それでも鬼に横道はないのぢやと呉葉は云ふ。
おまんにはその道理がわからぬ。
わからぬが盗む。殺す。拐かす。
里にはおまんが怖がるやうなものはない。
鬼に怖いものがあらうか。
呉葉一党が討ち取られた秋、
おまんが唇噛みしめて剃髪の辱めを受けた冬、
あのときまでは、
呉葉もおまんも確かに人であつた。
肉を切れば血が流れた。
口惜(くちお)しければ涙も流れた。
しかし今は。
刀を受けてもおまんは血さへ流さぬのだ。
おまんよ。何を
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