おまん瞠目(おまんとくれは、その参)/佐々宝砂
何を思ふてゐる。
わしは鬼であらうかと。
鬼よ。鬼であらうよ。それで何の不都合があらうかの。
わかりませぬ。
鬼となりて戻れと念じたのはおまへぢやらうに。
さやうでござります。
呉葉とおまんが暮らす荒倉の山には、
女たちの姿が今日も踊る。
拐かされた女たちである。
拐かされて何故か幸せさうな女たちである。
呉葉は汗ひとつかゝぬ涼やかな顔をして、
山中の渓谷に髪洗ふ女たちを見つめ微笑んでいる。
恐ろしいが穏やかな微笑みである。
かつてはこのやうな笑みを見なんだ、と
おまんは思ふ。
鬼と呼ばれたからこそ、鬼になつたのぢやらうて。
呉葉がぽ
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