おまん瞠目(おまんとくれは、その参)/佐々宝砂
確かに呉葉であると証せるひとは
この世に一人も居らぬ。
呉葉のひとりご経若丸も亡くなつた。
呉葉の母者も亡くなつた。
おまんと同じく呉葉の手足であつた、
鬼武も、熊武も、鷲王も、伊賀瀬も、
もはやこの世には居らぬ。
そして呉葉も。
呉葉を討ち取つた維茂も。
この世には居らぬ筈なのである。
実を云へば、
おまんもこの世にゐる筈でなかつたのだ。
おまんは自らの喉笛を懐剣で突いたのであつたから。
呉葉は今こゝに微笑んでゐる。
死んだ筈の呉葉を死んだ筈のおまんが見てゐる。
呉葉の笑みは恐ろしいやうな微笑みである。
鬼と云ふに相応しい微笑みである。
呉葉
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