おまん瞑目(おまんとくれは、その壱)/佐々宝砂
このやうに雪灯りする夜であつた。
おまんは月夜の雪道を駈けてゐた。
修験(しゅげん)の筋に生を受ければこそ、
雪の冷たさも山の闇も苦ではなかつた。
おまん駈ければ一夜に五十里と唄はれた、
その素晴らしく逞しい脚でおまんは駈けた。
しかしおまんは口惜(くや)し涙に泣いてゐた。
泣きながら駈けてゐた。
神のましますお山に入つてはならぬと、
禁じられたのが口惜しかつたのだ。
神の声を聴くのは女ではなかつたか。
神の姿を見るのは女ではなかつたか。
木の皮剥ぎ取る鹿(しし)よ退(の)け、
[次のページ]
[グループ]
戻る 編 削 Point(2)