おまん瞑目(おまんとくれは、その壱)/佐々宝砂
 

  木の根掘り出す猪(しし)よ退(の)け、
  そそのけ、そそのけ、
  おまんが通る。

  泣きながら駈けるおまんの眼に、
  山も谷も飛ぶやうに過ぎてゆく。
  そんなおまんを呼び止めるものがあつたのだ。
  おまんの早足をものともせず、
  かのひとは泣き叫ぶおまんに声を掛けたのだ。

  神の声を聴くのは女。
  神の姿を見るのは女。
  おまんよ。
  荒倉の山に来い。
  荒倉の山に来い。

  おまんは脚を止めた。
  脚を止めてそのひとをみた。

  雪白の上に広がるは、
  目を奪ふばかりあでやかな緋(ひ){ルビ毛氈
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