LAUGHING CHICKENS IN THE TAXI CAB。/田中宏輔
 
4・父の死、清水三郎治訳)
海がそれを運び去った。
                  (『ギルガメシュ叙事詩』矢島文夫訳)

エイジくんは、ぼくの横にうつぶせになって、背中に字を書いて欲しいと言った。Tシャツの上からだ。直に触れられるより気持ちがいいらしい。書くたびに、エイジくんは、何て書かれたか、あてていった。ぼくが易しい字ばかり書くものだから、途中から、エイジくんが言う字を、ぼくが書くことになった。「薔薇」という字が書けなかった。一年ほど前のことだ。西脇順三郎の「旅人かへらず」にある、「ばらといふ字はどうしても/覚えられない書くたびに/字引をひく」を読んで思い出した。


そう
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