LAUGHING CHICKENS IN THE TAXI CAB。/田中宏輔
なんだよね。先に、「ライ麦畑でつかまえて」を読まなくってよかったと思う。サリンジャーの中で、一番つまらなかった。たぶん二度と読まないだろう。まあ、文学作品の主人公というと、たいてい自意識過剰なものだけど、「ライ麦」の主人公に鼻持ちならにものを感じたのは、その自意識の過剰さもさることながら、自分だけが無垢な魂の持ち主だという、とんでもない錯覚を、主人公がしてたからだ。かつてのぼくも、そうだった。だからこそ、いっそう不愉快なのだ。
ずっと以前のことだ。
(ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』上、河島英昭訳)
ある晩、
(ズヴェーヴォ『ゼーノの苦悶』4・
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