雨の日/由比良 倖
 
もしれない」という顔で僕を凝視するので、僕は懸命に「とても、すごいと思う」と言う顔をしようと努力した。
 隅のベンチで、僕たちには無関心そうに足を組み替えたり、靴底を地面に擦り付けたりしていた少年が、ふと動きを止めて、振り向いて、
「雨、もっと降るといいですね」
と言って、透子に向かって笑った。彼はもうそろそろ変声期に近づいている少年特有の、ざらついてはいるけれど、よく通る声をしていた。透子は何も言わずに、嬉しそうに二回頷いた。少年は、僕と透子の間に割り込んで、自分の話を続けても構わないか、確かめるように、短すぎず、長すぎない時間、沈黙を保ったあと、僕たちから無言の了承を得たと感じたのか(実
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