MELBA TOAST & TURTLE SOUP。 カリカリ・トーストと海亀のスープの物語。/田中宏輔
 

       (プルースト『失われた時を求めて』囚われの女、鈴木道彦訳)
わたしは受話器をとりあげた。
      (ボルヘス『伝奇集』第I部・八岐の園・八岐の園、篠田一士訳)

自分の気持ちを正直に口にしただけなのに、詩人は不機嫌そうな顔をして黙ってしまった。唐突にされた質問だったので、つい、正直に答えてしまったのだ。そこで、気まずい雰囲気を振り払うため、ぼくの方から、でも、亀の詩は好きですよ、と言った。すると、彼は、人を疑うような目つきをして、そんな詩がありましたか、と訊いてきた。ぼくは、ほら、あのひっくり返った姿で、四肢を突き出し、ずぶずぶと水底に沈んでゆく、あの亀の詩ですよ、
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