聞こえない風の音が、永遠に鳴り続けてて/由比良 倖
 
々は眠っていた。僕は教科書をしまって、パソコンを立ち上げて、何かを書こうと思った。紗々の寝顔を見ながら、何でもいいから言葉を書こうと思った。彼女に見せるつもりのない手紙を一行ずつ書き始めた。

『紗々が倉庫に残した蔵書を、僕が読むのは(きっと読むだろう)まだ先のことになると思う。それが明日かも知れなくても。今は、紗々の寝顔が全てで……、ねえ、紗々、僕は紗々のことが分かりたいよ。理解なんて、そんなものじゃないんだ。僕は、……言葉が欲しい。もし、遺書を書くことで、この世界とお別れして、そしてそこで本当の紗々に会えるなら、僕は今すぐにそうする。けれど今の僕には、紗々の寝顔を見ることしか出来ないんだ。
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