聞こえない風の音が、永遠に鳴り続けてて/由比良 倖
 
って。ただ、私は臆病なだけなんだって。知っていること、考えること、その殆どは無くていいものなんだって。私は自分の怖さから、逃れたいだけなんだって。でも、そう思うことこそが、まさに私の堕落なんだって。……堕落。どうしようもないの。とにかく悲しいのよ。今朝から。死にたいなんてさえ、私は今思ってる」
 僕は何も言えなかった。教科書を見るふりをやめて、僕はまた、(「紗々が好きだよ」)と言おうと、殆ど反射的に考えた。考えてすぐに、ひどく白々しい言葉だ、と思って、
「紗々、横になりなよ」
 と言った。彼女は、言われたことにただ淡々と従うだけ、と言うように、目を開いたままで、強ばった姿勢のまま、ベッドに横
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