聞こえない風の音が、永遠に鳴り続けてて/由比良 倖
ーを胸ポケットから出して、緩慢な動作で煙草に火を着けて吸い始めた。一度煙草に口を付けると、それからは自分が煙草を持っているのも忘れたみたいに、煙草の灰が落ちそうになっているのにも気付かないみたいだったので、僕は無言で灰皿を彼女の傍に置いた。
「何か、飲む?」と訊くと、彼女は頷いたので、僕は台所に行って、冷えた、ライム味の炭酸水と、グラスを持ってきた。炭酸水をグラスに半分ほど入れて、ベッド脇の小さなテーブルに置いた。彼女は、それにほんの一口付けて、「ありがとう」と言いかけたけれど、すぐにまた不安そうな姿勢に戻った。
不意に彼女は平坦な口調で「何も書けなかったわ」と言った。「何の為に、何の理由が
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