聞こえない風の音が、永遠に鳴り続けてて/由比良 倖
ては、泣くのはいけないことのように思えて、そう思うともっと悲しくなるの。しばらくしてから、そのひとは立ち上がって、ポストカードを買いに行こう、素敵な絵はがきを探しに行こう、と思い立つ(まあ、これは、いい仮定ね)。それから先、そのひとがずっとそうである、という保証はないけれど、泣くのをやめたときや、手紙を書くことを思い立った瞬間だけは、そのひとはとても詩的な人だったのよ。あるいは私的と言ってもいいかもしれない。要するに人には寂しいくらいに優しくなれる瞬間があるの。そんな瞬間には、定型文なんて、見た瞬間に吐き気をもたらす毒物みたいなもの。カミングズなんかね、うん、常備されてるべきよ。……私が死んだとき
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)