聞こえない風の音が、永遠に鳴り続けてて/由比良 倖
、欠落していると思うから」
紗々はグラスを僕の方へ滑らせて、それからまた瞑想的仕草を取りかけたのだけど、すぐにまた煙草に火を着けて、少し落ち着きなく吸い始めた。
僕はビールを飲みながら、夢で見た風景(とも言えない風景)を思い出そうとしていた。紗々が出てきた気もするし、遠い昔に、そう親しくなかった級友が出てきて、何故か重大な話を当たり前のように僕に語ったような気もするし、それもみんな今考えた創作のような気もしてきた。「聡明なる天使が」という文句を何年間も、(恐らく精神病院の一室で)ノートに何十冊にも渡って書き続けて死んだ、詩人の話を急に思い出したりもした。(これも、今僕が適当に考えた創作のよ
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