聞こえない風の音が、永遠に鳴り続けてて/由比良 倖
浮いている架空の球を包み込むような格好で、両手の五本の指を合わせたあと、少しだけ肩を落として、何も見ていないような、また何もかもを絶対に見落とすことのないような眼差しで、僕の挙動を見ているようだったので、僕は緊張してしまったのか、自分の唇を噛んでいることに気付いた。
紗々に向かって、「あのさ、そんな真剣に見られると困る」と言った。紗々は、瞑想的な態度を崩さず、その代わり、合わせた両手の指を心持ち口元に近付けながら、
「あのね、暁世くん。初めてなんだよ。私は、黒ビールを注ぐ風景を、現物でも、テレビでもネットでも、見るのが、初めてなの。初めて、というのは、一回しかないの。例えそれがどんなに些細な
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