聞こえない風の音が、永遠に鳴り続けてて/由比良 倖
ルーツジュースと、そして愛くるしい弟を主題にした、最高の絵が、きっと描けるよ。うん、ここにペンが無いのが残念だ」
それからまた、何かを思いついたのか、くすくす笑って、楽しくて堪らないような顔で上を向いて、冗談めいた口調で、
「そして、この瞬間が一瞬だなんて、何という、素晴らしい世界なんだろう。ねえ、暁世くんもそう思いはしない?」
と言って、それから僕の方をまっすぐに見たので、僕は目を逸らしてしまった。彼女は、ジュースに口を付けて、
「この苦み。苦くないグレープフルーツジュースなんて考えられない。でも苦みは、それだけでは、美味しいものの要素たり得えない。不思議なことね。そしてまたこれ以上苦
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