聞こえない風の音が、永遠に鳴り続けてて/由比良 倖
んだね。芸術は、本来プラトニックなものだったのだと思うな。でも今は……それは技術と美辞麗句だよ、いや、それこそまるで定型的な言い種ね、アルコールで私、馬鹿になったかな、昔は……昔? 昔なんて私は知らない、知っているとして……いや、もともと……人間なんて……」
紗々は急にしどろもどろになって、不意に口を噤んでから、しばらく黙って、グレープフルーツジュースを飲んでいたけれど、その内に酔いが覚めてきたのか、不意に無邪気な様子で、両手で空中に小さな円を描くようなそぶりをして、先ほどの話に戻った。
「うむ。古いライカか8mmカメラで撮って作品にしたいようだよ。ここにペンと紙があれば、私はグレープフルー
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