聞こえない風の音が、永遠に鳴り続けてて/由比良 倖
 
らしいね。グレープフルーツジュースが瓶からカップに注がれていく、ゆっくりと、はやすぎず。カップの中で揺れている。新たな色が産まれてく。何て美しい黄色なんだろう。いや、オレンジ色かな。うん、グレープフルーツ色だ。それから、ジュースを注ぐ素晴らしい暁世くんの手つき、うん、その古典的ともとも言える素晴らしさは……、今、私だけが感じていて、暁世の手が感じている冷たさを、私も感じる気がする。ゆっくり、この瞬間を切り取って形にしたいような……、ああ、あなたはどう? いや、今この瞬間でなくてもいいの。きっと、このことを一生覚えているだろうと、確信出来る瞬間があって、でもどうしてなのか分からない、そういう瞬間が、
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