水中に居ると何かを思い出せそうな気がする/ホロウ・シカエルボク
起こっていない、当り前だ、この部屋には俺しか居ない、俺は悲鳴など上げていない、イヤホンをしていると距離感が少しおかしくなる、街路を行く節度の足りない女がはしゃいでいる声を浴室で聞こえたと勘違いしたのかもしれない、現実にせよ勘違いにせよそれを証明する方法など無い、ならばそれについてはもうそれ以上考えることはない、俺は哲学書を書こうとしているわけではないのだ、部屋に戻る、部屋に吹き込む風はいつもより強い、イヤホンをもう一度耳にかける、少しぼーっとする、こんな日が遥か遠い昔にもあった気がする、なにも無いからこそ脳裏に深く刻まれてしまう光景、もしかしたら数日前にもあったかもしれない、来週にもきっとあるだろ
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