『本好きの下剋上』を〈身体の神話〉の物語として読む/大町綾音
 
繰り返す少女の身体だった。ここにまずひとつの象徴性がある。物語は、生の根幹にある「身体の不安定さ」を徹底的に描くところから始まるのだ。

 身体が健康でなければ、知識も、行動も、愛も、ままならない。どれだけ豊かな精神をもっていても、それを現実の世界に浸透させるためには、まず「立ち上がる身体」「働く身体」「生き抜く身体」が必要となる。マインはことあるごとに病に倒れ、発作を起こし、時に死にかけながらも、自らの身体と和解し、折り合いをつけ、生き抜こうとする。それは抽象的な意味ではない、きわめて現実的な、「熱を下げる」「食べる」「寝る」といった行為の神聖さに気づくプロセスである。

 この物語の真
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