『本好きの下剋上』を〈身体の神話〉の物語として読む/大町綾音
 
の真の下剋上は、身体の回復をめぐる戦いであるとすら言える。マインの知識や発想は、確かに「文明の再構築」を支えるが、それを可能にするのは、「生きのびること」そのものの不断の努力である。そしてその努力は、身体という土壌に深く根を張っている。

 魔物や陰謀、宗教的な儀式や貴族社会の策略は、すべてこの「身体に生きることの困難性」を象徴化した存在だ。たとえば、身体に蓄積される「魔力」の暴走──デヴェリ症は、まさに身体がこの世界のルールに適応できず苦しむ構造である。それは現代における自己免疫疾患やアレルギーのようでもあり、あるいは社会的な生に馴染めない個人の比喩でもある。異世界に投げ込まれた「異物」とし
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