空に還る雨/まーつん
 
先には
大きな滝があった

大地を横切る
見渡す限りの切り欠きが
私の行く手を通せんぼしていた
そこを乗り越えた水の膜が
深い谷底へ落ちていく

縁に立ち尽くすと
眼下にたなびく水煙の向こうに
沢山の悲しみが溺れていた
人々の心から洗い流された
記憶の影が、暗い光景が
元いた場所に戻ろうと
もがいていた

打ち付ける雨水は
泡立ち、飛沫を上げ
人々がかつて、閉じ込められていた
出口のない、苦悩の迷路を溶かしていく



汚れの落ちた私の身体は
いつしか、透き通るように軽くなり
笑みを浮かべて見上げた空から
雲は徐々に引いていく

宙に浮く
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