『薬屋のひとりごと』における「恋愛システム」と「文化システム」/大町綾音
 
況を判断する。その知性は、男性社会・権力構造に媚びない独立性の象徴でもあり、感情的な恋愛よりも“観察”と“制御”を選ぶような人物として描かれている。

 しかし、その冷静さの背後にあるのは、自己防衛であり、恐れであり、たぶん過去の傷だ。彼女が感情を理性で抑圧する場面は、現代を生きる多くの女性の共感を呼ぶだろう。自立とは、「恋をしないこと」ではなく、「恋に振り回されない力を持つこと」だからである。

 読者はマオマオを通して、娯楽作品のなかに思索を持ち込み、「恋愛が物語の中心にあるとは限らない」という逆説的な立場に立たされる。それは、知識と倫理のシステムのなかで“自分を生かす”ことの難しさと
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