風に逆らわず、時代に寄り添わず──西行の文体とその孤独/大町綾音
む西行の歌は、古今調の雅な調べとはほど遠く、感情の澱や無常の渦、そして仏教的空無を濾過しきれずに残した余熱を携えている。
この齟齬は何を意味するのか。
西行は、いわば「規範を愛しながら、規範には生きられなかった人」である。貴族として、武士として、出家者として、詠み人として、いくつもの立場を渡りながら、彼はどこにも完全に収まらない。それは彼が反骨だったからではない。むしろ、収まることを自覚しながら、それでも心が逸れてしまうという「誠実な迷い」が、彼の本質だった。
では、なぜ彼は自ら古今調で詠まなかったのか。いや、なぜ詠めなかったのか。
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