風に逆らわず、時代に寄り添わず──西行の文体とその孤独/大町綾音
 
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 もちろん、これはあくまで一つの仮説に過ぎないのだが、そこには一種の「政治的配慮」があった可能性がある。西行は、出自こそ高くとも、すでに武家政権と院政のあいだで不安定な権力が揺れる時代を生きていた。彼のような高度な知識人が、宗教者として辺境を彷徨いながらも文体の鋭利さで発言してしまえば、それはときに「思想犯」になりかねない。

 古今調──それは王朝文化の象徴であり、体制が好む“無害な雅”でもあった。
 西行はそこに弟子たちを導きつつ、自身はそれを仮面とし、より深い傷を文体に託したのではないか。
「時流にのらぬ者であることを示すには、あえて古今を指させばよい。だが私は、ほん
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