昭和64年をまたいだ後に/北村 守通
 
替わった
 エースコンバットのコマーシャルだった
 再び
 画面が切り替わり
 泣き叫ぶ
 人々の姿が映し出されたが
 僕らは
 それどころではなかった
 僕らの
 休憩時間は終わり
 持ち場に戻らなければ
 朝の出荷に間に合わなかった
 それが
 もっとも
 僕らにとって大事なことだった
 その責務を果たしてこそ
 その日の僕らは
 弁当を買うことが出来たし
 温かい漫画喫茶の一室を確保し
 一枚の毛布を確保することが出来た
 少しだけ
 財布の中を
 ほんの少しだけ
 膨らますことが出来た
 少なくとも
 その日
 一日は
 安心して
 
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