四月終わりのメモ/由比良 倖
きじゃなかった。岩石や金属だらけの宇宙では、ナイフは何の役にも立たないからだ。地球というローカルな場所に窮屈さを感じていた。今は、宇宙の何処にいてもこの身体を切り裂けるナイフに魅力を感じている。他には特に切り刻みたいものが無い。
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音楽は僕だけの思い出を内側から照らしてくれる。
凍るような山際。無音の雪原、氷のようなドラムの音。
感覚に感覚を上書きしていく。思いっきりダウナーな気持ちでいるのが好きだ。身体から十億光年離れた場所にいるような気分で。
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本から目を上げて、息を吐いた瞬間、眼の前の全てのものが、可愛く、新鮮に見えたりする。遠い車の音が、心の中の古い
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