ある寒い春の日/ホロウ・シカエルボク
い気がして、僕はドアを開けた、ドアの外に立っていたのは彼女だった、「上がってもいいかしら」と、君は作法的な微笑を浮かべながらそう言った、「もちろん」と僕は答えて彼女が通れるように少し身体を寄せた、彼女は手ぶらで、寒くないのだろうかと思うほど薄着だった、食卓へ真直ぐ歩いて、僕がさっき座っていた椅子の向かい側に座った、僕もさっきまで座っていた椅子に戻った、「賭けをしたの」彼女は紅茶の缶を手に取って、懐かしく、愛おしそうに見つめながらそう言った、「あなたがこれに気付くことが出来たら一度訪ねてみようって」僕はなんと言っていいかわからず、ただ頷いた、「一日目よ」「―何が?」「私がこれをあそこに置いたのは」僕
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