THE GATES OF DELIRIUM。 ──万の川より一つの川へ、一つの川より万の川へと/田中宏輔
 
とだったでしょうか、四国のとあるところで和尚をしている一人の坊主と知り合いまして、しばらくの間、付き合っていたのですが、月に一、二度、京都に来なければならない用事があるとかで、わたしとはじめて会った日も、その用事を済ませた帰りだったそうです。日の暮れ時に、葵橋の袂にあります葵公園で出会いました。車で来ていた彼は、よくわたしをドライブに連れて行ってくれました。鴨川の源流の一つであります岩屋谷の志明院にも、昨年の五月にたずねたことがありました。五月といいますのに、雲ケ畑の山道には、溶け切らなかった雪が、あちらこちらに点在しておりました。高野川のほうではなく、賀茂川のほうを遡っていったのですね。車で行け
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