THE GATES OF DELIRIUM。 ──万の川より一つの川へ、一つの川より万の川へと/田中宏輔
 
関 楠生訳)。川には、牛もまた流れるということ。大学院の二年生のときのことである。前日の激しい台風が嘘のように思われる、よく晴れた日の午後のことであった。賀茂川の下流に、膨れ上がった一頭の牛が流れていたのである。アドバルーンのように膨れ上がった牛の死骸が、ぷかぷかと浮かびながら、ゆっくりと川を下っていくのを、恋人といっしょに眺めていたことがあったのである。「牛を見に行こう」(レイ・ブラッドベリ『刺青の男』狐と森、小笠原豊樹訳)。そういえば、わたしがはじめて書いた詩のタイトルは、「高野川」だった。それはまた、一九八九年度発行の「ユリイカ」八月号の詩の投稿欄に掲載されたのだった。そのときの選者は吉増剛
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