俗・西遊記/栗栖真理亜
綺麗な坊さんの顔を見たのは初めてだ」
惚けたような顔をしてそう呟くと、猿の妖怪は顔よりもさらに毛深く汚れた手を突き出した。
「ひゃっ」
私は心からおびえて身を避けようとしたが、岩に足を挟まれてしまって思うとおりにいかない。
妖怪は手を伸ばして岩を掴み取ると、ひょいっとあさっての方角へ放り投げた。
ドシンッという音と共に何かが潰れた様な音がしたが、私といえば、わが身を庇うことに必死で、あえて見て見ぬ振りをした。
何個か私の足元を覆っていた岩が取り除かれ、
なんとか足を動かせられる範囲にまで達した。
猿はしゃがみこんで私を抱え込むとそのままズンズンと歩いて自分のネグラへと私を攫って行っ
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