ATOM HEART MOTHER。/田中宏輔
 
いうものは、大きなものよりも小さなものに対して、抽象的なものよりも具象的なものに対して、よりよく働くものである。「愛するものは、生き生きしてる」(フィリップ・K・ディック『凍った旅』浅倉久志訳)という言葉もあるが、それは、具体的なものが、愛する対象となっているために、精神がよく働かされ、こころがうれしくなるからであろう。エズラ・パウンドの「おまえが愛するものはのこる」(『詩章 第八十一章』出淵 博訳)という詩句が思い起こされる。また、愛とくれば、憎しみが、憎しみとくれば、苦痛が連想される。ダン・シモンズの「人生ではね、最大の苦しみをもたらすものは、ごくちっぽけなものであることが多いの」(『エンディ
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