ATOM HEART MOTHER。/田中宏輔
必要があると考えられたのである。真実の一部を虚偽に譲り渡し、虚偽の一部を真実のなかに取り込む必要があると考えられたのである。芸術作品が、それを見たり聞いたりする者に、その者の生をより切実に実感させることがあるというのも、その者自身の生の真実の一部を、虚偽と交換するというところからきているのではないだろうか。ノヴァーリスの「活性化とは、わたし自身の譲渡であると同時に、他の実体を我がものとすること、もしくは自分のものに変成しなおすことである。」(『断章と研究 一七九八年』今泉文子訳)という言葉が思い起こされる。
そのとき、彼らが出会ったポルノ映画館には、わたしはいなかった。そのとき、彼らが入っ
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