ATOM HEART MOTHER。/田中宏輔
 
るのではなかろうか。もちろん、じっさいの体験を通してのものではないどのような感情も、ほんとうの感情ではないのだし、理解するということも、また同様に、じっさいの体験を経て実感するという経験をしていなければ、けっして、ほんとうの意味では理解するということにはならないものである。しかし、ほんとうの感情になるためには、自己の生の真実の一部を虚偽と交換する必要があるのではないだろうか。じっさいの体験と同様に、そのような経験も必要なのではないだろうか。引用による詩を数多く書いてきて、わたしはいま、そのことに気づかせられたのである。真実が、よりたしかな真実さを獲得するためには、その真実の一部を虚偽と交換する必要
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