ATOM HEART MOTHER。/田中宏輔
 
到達してこそ、(……)、美そのものを観るに至ってこそ、人生は生甲斐があるのです。」(久保 勉訳)と語ったディオティマの話が思い出される。わたしもまた、ノブユキといっしょに浴びたあのシャワーの湯しぶきのきらめき、その飛沫の一粒一粒の光が発するきらめきを通して、美そのもの、生の本質そのものに辿り着くことができるような気がしたのである。「誰に真実がわかるだろう。」(ダグラス・アダムス『宇宙の果てのレストラン』29、風見 潤訳)。だれに生のすべての真実がわかるだろう。わかりはしないだろう。しかし、わかるのではないかと思わせられたのである。わたしたちは、直接の体験だけから、生のすべての真実を知ることができる
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