ATOM HEART MOTHER。/田中宏輔
 
ていないのである。矛盾してはいないのである。また、そういった印象は、あるいは、感覚は、意識領域のみならず、無意識領域に眠っている記憶をも刺激するのである。先に、わたしは、「韻律はリズムを生み、言葉に躍動感を与える。すると、読み手のこころは大いに喜ぶ。それが、愛の本性に適ったことだからである。」と述べた。現実と非現実の間で揺れ動くことの喜びも、矛盾した情感の間で揺れ動くことの喜びもまた、愛の本性に適ったことなのであろう。

 愛の本性といえば、プラトンの『饗宴』のなかで、ソクラテスに向かって、「愛の奥義に到る正しい道とは(……)結局美の本質を認識するまでになることを意味する。」「生がここまで到達
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