ATOM HEART MOTHER。/田中宏輔
 
のきらめきなど、まったく思い出さなかったのに、出来上がった「マールボロ。」を読んだとたん、すぐにノブユキといっしょに浴びたシャワーの湯しぶきのきらめきが思い出されたのである。しかも、そうしていったん思い出されてしまうと、こんどは、ノブユキといっしょに浴びたあの湯しぶきのきらめきの方が、「マールボロ。」という作品を、わたしにつくらせたのではないか、とまで思われ出したのである。他の言葉もその湯しぶきを浴びる。すべての言葉がその湯しぶきを浴びて、すべての言葉がノブユキとの愛を語っているように感じられたのである。これは事実に反する。矛盾している。しかし、印象としては、あるいは、感覚としては、事実に反してい
[次のページ]
戻る   Point(13)