首曳きの唄/栗栖真理亜
がら、ひとり、にやついていた。
「近藤君」
突然、呼びかけられて、僕は夢から覚めたような心地ではっとして振り向いた。
いつの間に来たのだろう?
僕の目の前には何故か奇異な顔付きで見つめる渡辺万里子の姿があった。
「どうしたの?そんなに嬉しそうにして」
彼女は顔を赤らめて恥らうどころか、むしろ、眉間に皴を寄せ、
僕を変な人間であるかの様な目つきで僕を睨み付けた。
「いや、なんでもない」
僕のほうが恥ずかしくなって、下を向いた。
「あのね。ずっと近藤君に伝いたいことがあったんだけど、学校ではさすがに話せないから、わざわざここに来てもらったの」と突然彼女は小声にな
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