首曳きの唄/栗栖真理亜
発を覚えながらも聞き耳を立てるためにヤツの隣にピッタリくっ付いた。
「実はだな・・・」
ヤツは急にまじめくさった顔付きになって語り始めた。
「実はだな、俺いま金がなくってさ、困ってるんだよ。それでさ、お前に貸してもらおうと思って」
「えっ?」
余りにも寝耳に水の出来事であるかのように、僕はわざと驚いて見せた。
だいいち、前にも言ったように、いくら幼馴染だからといって、
僕と垣ノ内(こいつ)とは親しかったわけではまったくない。
それなのにお金の無心を赤の他人の僕に頼むとは余りにも虫が良すぎる。
ここは出来れば聞かなかった振りをしておきたかった。
それでも垣ノ内
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