首曳きの唄/栗栖真理亜
いい?」
「はい」
僕も諦めるように首を縦に振った。
ナイフがない以上、彼女の言う通りにするしかなかった。
しかし、あのナイフはどこへ行ってしまったのだろう?
「じゃあ、今日はもう休みなさい」
僕の思いとは裏腹に彼女は柔らかく微笑みかけると、まるで赤ん坊を躾けるかのように、 掛け布団を首下にまでずらして上げてくれた。
仕方なしに僕は眼を無理やり瞑った。
すると、電気が消されたのか、瞼から漏れていたはずの光が暗闇に変わった。
「先生はここにいるから」
闇の中で漂う彼女の声がまるで子守唄のように心地よく耳に残った。
僕は体から発せられる心地よい痛みと共に眠り
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