首曳きの唄/栗栖真理亜
これ以上ないぐらい悲しみをにじませた瞳で僕を見つめる。
『どうして本当の事言ってくれないの?』
彼女はまるで僕を抱きしめようとするかのように両腕をまっすぐに僕のほうへ伸ばした。
その伸ばした細い指先を僕はじっと見つめる。
『本当の事を言ってしまえば、何もかも楽になるのよ』
いつの間にか彼女は眼前に立ち、僕の肩を激しく揺すっていた。
僕は何か言おうとして口を開けたが、そこから飛び出してくる言葉は何もなかった。
『近藤君』
彼女が涙ながらに訴えるかのように自分の胸を押さえた。
『あなたを殺さないで』
僕は強く首を振った。
(僕は自分を殺してなんかいない)
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