首曳きの唄/栗栖真理亜
 
に溜まって、 たわいのないバカ話に講じたりしている。
(・・・ということは、僕の“大切なもの”をどこかへ盗んで行ってしまった犯人は、ここにはいないのだろうか?)
僕はひじを突いて窓際に映る空を眺めながら、そんなことを考えた。
(だとすると、一体誰が・・・???)
皆目見当がつかない。
僕の気持ちを代弁するかのように、灰色に握った空も、一向に雨が降りそうで降らないまま、判然としない様子を呈している。
ぼくはふと、カサを持ってこなかったことに気付いた。
(カサでも持って来れば良かったな)
そんなことを考えながら、どこまでも空をどす黒く覆い隠す雨雲をぼんやりとした面持ちで
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